鶏崎ひよこのモトブログ

YAMAHA SRX600(1988年式)とSUZUKI TL1000S(1997年式)の整備記録やツーリング、雑記

【YAMAHA SRX-6】納車4ヶ月レビュー:

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前説

SRXに乗りたい!」と決意し、免許を取る前にバイクを押さえてから教習所に通い、NC750Lに振り回されながら何とか卒研に合格、大型二輪免許を手に入れた12月。無事に人生初めてのオートバイであるヤマハSRX-6を手に入れてから、早いものでもう4か月である。

4か月あればインドあたりに旅行して自分を見つけたような気になり、「人生の価値観がアップデートされた」と悟り顔で周囲に吹聴し、日常に戻ったら人生って旅行程度で変わるようなもんじゃないと思いはじめるぐらいの時間である。夢は4か月あれば醒めるが、僕のSRXへの愛情は揺らがなかったのか。後悔はないのか。今ここで振り返っていきたい。

SRXとは?

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SRXについて語られている良質なブログ記事はいくつもあり、いちいちここで書き直す必要もないのは事実。そういった記事を読まれたい方は、「SRXとは」の部分は読み飛ばして、以下の2つを見ていただければだいたいわかると思う。

 

 

しかしながら、あえてここでは何番煎じかわからないが、SRXについて語ってみよう。

 

SRXとは

SRXは、1985年に発売されたヤマハの単気筒のネイキッドバイクである。SRX-4(400)とSRX-6(600)があり、SRX250も存在するが、ここでは特にSRX-6について述べていく。だってSRX-6以外のモデルは乗ったことないからよくわからんし。

 

SRXが誕生した1985年は、まさにレーサーレプリカ全盛の時代であったようだ。DOHCで高回転まで回る高出力な4気筒エンジン、フルカウルに派手なペイント。各メーカーは毎年のように新モデルを発表しカタログスペックを競い、どんどん売れる狂乱の時代。しかしそのなかで、世の中の潮流に違和感を感じる人たちが、ライダーにもメーカーにも確かに存在していた。SRXの開発コンセプトはまさに、「レーサーレプリカ全盛の時代へのアンチテーゼ」であると言える。まぁ僕はその時代に生きてないので知らんけど。

当初、SRXの開発テーマとして「くたばれ!お気楽パッコーン」という今となっては意味不明なスローガンが掲げられていた。「パッコーン」というのはハリセンでツッコむときの音らしい。そのネーミングセンスの良し悪しはさておいて、当時の状況に当てはめれば、カタログ上の馬力や装備の豪華さを競い合い、走りというものの本質、バイクの本質を見失いつつあったメーカーや世の中に対するツッコミでもあったのかもしれない。

ここでは割愛するが、開発者後日談的なインタビューでは異常な強いこだわりを持って開発されたストーリーがいくつもでてくる。こうして世の中の潮流に反発する変態変わり者たちによって、世の中に誕生したのがSRXというバイクだ。

 

キック始動オンリー、控えめな馬力、マルチと比較すると回らない単気筒ビッグシングルエンジン。当時としては強力なブレーキ、異様なまでに細身で華奢ともとれる優美な曲線を描くタンクとフレーム、三角形の無機質なアルミ製のサイドカバー、エンジンが普通に下ろせなくなるほどびったりとエンジンにフレームを沿わせ、隙間のない美麗なデザイン。余計なものはつけず、走りにとって必要なものだけをつける。僕自身このデザインと媚びないコンセプトに惹かれたタチである。

だが、当時の反応は結構賛否両論であったようだ。「単気筒のスポーツバイク?そんなんつまらないだろ」というアホライダーも多くいたようである。だが同時にSRXは熱烈なファンも生み出した。こんなメインストリームに中指立てるようなコンセプトでありながら、そこそこ売れたのである。そのためか、のちにデザインを一新し、セルを搭載、モノショック化した後期型も発売された。

しかしバイクブームの終焉とともにセールスは尻つぼみとなり、1996年にカタログから姿を消すことになる。そしてクラシカルスタイルな兄弟車種であるSRだけが令和の時代まで生き残っていくことになる。すごいよSRお兄ちゃん。とうとうFinal Editionになっちゃったけど。

 

とまあ、ここまで御託を並べてみたものの、こんなことはちょっと調べればもっと正確で信頼できるソースがたくさんあるので、さっさと「実際乗ってみてどう感じたか」について書いてみよう。

エンジン特性は?

SRXのエンジン、特に僕の乗っているSRX-6のエンジンは、ヤマハのオフロードバイクであるXT600のエンジンが原型となっている、ドライサンプ式の608ccビッグシングルエンジンである。ビッグシングルとカッコつけて言っているが、ようするにクソデカい排気量になったカブである。というか純正の排気音はまんまカブ。

バイクのレビューでは、「モーターのように滑らか」とか「シルキーに回る」とか、そういう表現が多様されるが、ビッグシングルのエンジンはこういうお上品ライターに対して中指立てて蹴っ飛ばすようながさつなフィーリングだ。1軸バランサーは入ってはいるものの、現代のホンダCB250RとかGB350みたいな単気筒エンジンの振動と比較すれば明確に大きい。だが慣れる。慣れは偉大だ。そして振動に調教され、振動がなければバイクに乗った気がしないという変態が生み出される。ビッグシングルを讃えよ。

SRX-6のエンジンは2000rpm以下だとギクシャクするので、街中は基本的には2000~4000rpm前後で走ることになる。ワインディングのようなある程度メリハリつけて走る道では3500~6000rpmぐらいまでを多用するが、レッドゾーンが7000rpmという「クルマでももうちょっと回るぞ」と言いたくなる低さだ。

当然、絶対的な速さは当然SSなどの多気筒スポーツバイクには敵わないものの、低回転から生み出されるトルクが単気筒の鼓動に合わせて地面を蹴り飛ばしていく感覚は、独特の世界観がある。特に上り坂のワインディングでコーナーからの脱出時に徐々にスロットルを開け、最後に全開にして脱出する瞬間は思わず顔がにやけてしまう気持ちよさである。

ちなみに、そのヒラヒラとした軽量さとエンジンのパンチ力から、上手い人が走ると峠道なんかでは無類の速さがあるらしい。ちなみに僕はへたくそなのでまったく速くない。

 

ハンドリングは?

これが低速だと恐ろしいほど切れ込むのである。比較対象が教習車のNC750Lなのでアレなのだが、低回転でのエンジンの扱いにくさとも相まって、割と低速のUターンとか怖い。ともすると不安定さともとれるひらひら感があるが、慣れれば軽快に曲がっていけて楽しい。ただ、素直というよりは特有の癖はある印象だ。単純に個体差かもしれないが。

 

キック始動ってどう?

SRXに乗っていると「キックのみってしんどくない?」とよく訊かれる。それにたいする僕の答えは「黙れボケカスコラ(トラブってなければしんどくないよ)」である。

分かってはいるのだ。キックスタートは、セルスタートがあたりまえの現代においてはある種の儀式や宗教的なこだわり、カッコつけに近いものであり、実用性だけを考えればセルの方が楽だし、確実。だがそんなことはいちいち言わなくてよろしい。キックが便利なんだったら、後期でキックがわざわざ廃止されるわけないじゃないか。キミ、ロマンだよロマン。ロマンがわからん奴は乗らなくて結構。

まぁSRXはオートデコンプ機構があるので、SRのようにキックインジケーターをチェックして、自分で調整するみたいな手間はない。しかしこれが意外と厄介で、SRであればインジケーターがあるので確実に圧縮上死点を出せるのだが、SRXでは感覚がつかめないとちゃんと圧縮が抜けてないのに踏み込もうとしてしまい、固すぎて踏み込めずたたらを踏むというまあまあダサいことになる。そんなときはちょっと首をかしげて、「あれーおっかしいなー」と「俺は悪くない」感を醸し出していくのがオススメだ。

それと、キルスイッチがオフなのに蹴りつづけるという地獄もあったりする。特に洗車直後なんかは無意識にキルスイッチに触れている可能性があるので、割とやりがちである。セルだったらそもそもセルが回らないからすぐに気がつくが、キックだと気がつかずに10回ぐらい蹴ってからオフになっているキルスイッチを発見し、徒労感でその場にうずくまることになる。

しかし、エンジンやキャブが快調なら、そこまでの苦労はない。僕の個体はだいたい1~2回、調子がよくなくても5回までで始動する。いまのところ、キック始動で泣きを見たケースはこの4か月ではないが、長く乗ればそういう機会もでてくるかも。

不満点はないの?

ない。といえば嘘になるが、ほとんどないと思う。というか覚悟して乗ってるから、不満に感じないというのが正確か。

あえて言うなら、積載能力のなさ。シート下はETC入れたらそれで終了。リアフェンダー内はレギュレーターが鎮座しており、物を入れられるスペースはほぼない。しかもなまじ見た目が美しいので、シートバッグが絶望的に似合わない。そのため、妥協してシートバッグを使うか、気合いをいれてすべてバックパックで背負うかの2択である。


あとは旧車特有の電装系の弱さもある。電熱装備はもちろん、ちょっとした電源をバイクから取るのも躊躇する貧弱さである。まぁ意外と大丈夫なのかもしれないが、クソザコレギュレーターをいじめると泣きを見るのは自分である。

 

まとめ

総括すると、僕自身はこのSRXというバイクをすごく気に入っている。いまだに「本当に楽しいバイク」だと思うし、このバイクに乗っている自分も好きになれそうなバイクだ。そういう意味では、メーカーやオーナー各位には大変失礼だが変態とかナルシストとかこだわりが強い人向けかもしれない。これは実際に言われたことだが、「SRX選ぶような人はだいたい変人」らしい。でも実際そんな気もする。変人と言われて喜ぶタイプの人間が多いんじゃないだろうか。4か月で人生は変わらないが、僕の趣味性癖はビッグシングルに調教されてしまったようだ。